コラム

親の土地の上に、自分名義の建物を建てて住んでいます①相続 2016.10.25

親名義の土地の上に、自分名義で建物を建てて住んでいる方も多いと思います。しかし、親が亡くなって、土地を兄弟で相続することになった場合、そのまま自分名義の建物に住み続けることはできるでしょうか。

1 親の土地上に建物を建てることの法律関係

親子といえども他人であり、また、「親の土地は子どもが自由に利用していい」という法律の規定はありません。したがって「親の土地の上に自分名義の建物が建っている」という事実は、法律上、他人の上に自分名義の建物が建っていることと、何ら違いはありません。それでは、どのような権利に基づいて、親の土地に自分名義の建物を建てることができるのでしょうか。

他人の所有物を、他人の承諾を得て、自分のために使用することは、端的に言えば「借りている」状態となります。それでは、この「借りている」という状態は、法律的にはどのように評価できるのでしょうか。

2 「借りる」とはどういうことか?

民法上、「物の貸し借り」は、「使用貸借」または「賃貸借」という2つに分類されます。

使用貸借は、「当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる」と規定されており(民法593条)、いわば、物をタダで借りている状態のことを指します。例えば学生が友達同士で漫画を回し読みする場合は、法律上「使用貸借」に当たります。

一方,賃貸借は、「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と規定されています(民法601条)。これは、賃料を支払って物を借りる状態のことであり、身近なところでは、賃貸住宅やレンタルDVD、貸衣装などがこれに該当します。ただし、今後は、本項の趣旨に即して、主に建物所有目的の土地の賃貸借の場合について記載します。

3 「使用貸借」と「賃貸借」の違い

きちんと使用の対価である賃料を支払っている賃貸借と比較すると、費用の対価を支払っていない使用貸借において、借りている人の権利は弱いものとなっています。

例えば、使用貸借の場合、借主は「目的物の返還を定めなかったときは、契約に定めた目的に従い使用及び収益をおわった時に返還しなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる(民法第597条2項)」「当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる(民法第597条3項)」と規定されています。

これはどういうことかというと、例えば調理道具を無償で借りる際に、「いつ返すか決めていなかった場合でも、料理するために借りる、ということで借りたならば、料理が終わったら返さなくてはならない」、「いつまでも料理をしなかったとしても、料理が終わるころには返さなくてはならない」、「特に料理をするために借りたわけではないのならば、返してと言われたときに返さなくてはならない」ということになります。つまり、使用貸借の場合、原則として使ったらすぐに返さなくてはなりません。

4 「賃貸借」の終了

建物所有目的の場合の土地の賃貸借は、民法だけでなく、借地借家法の適用があります。借地借家法上、建物所有目的の土地の賃借権については「借地権」と規定されていますが、借地権の存続期間は30年と規定されています(借地借家法2条1号、同法3条)。また、存続期間が終了しても、更新を拒絶するには、正当の事由がなければなりません(借地借家法6条)。

借地権は30年間存続し、また、更新の拒絶も、立退料の支払いなどの正当な理由がなければできませんので、借地権者にとって、非常に強い権利といえます。

5 親名義の土地上に自己名義の建物を建てている場合

それでは本稿のテーマに戻って考えてみましょう。親名義の土地の上に、建物を建てて住んでいる場合の法律関係は、親が土地の「貸主」、子が「借主」、子が親に賃料として地代を支払っているならば「賃貸借」、地代を支払っていないのならば、「使用貸借」となります。

このような状態で、親が亡くなった場合、どうなるでしょう。

子以外に相続人がいない場合では、子が親名義の土地を相続し、また同時に「貸主」の地位も相続することになります。このため、「子」に「貸主」と「借主」の地位が帰属することになるため、賃借権または使用借権は民法上の「混同」の規定により消滅します(民法第510条)。すなわち、単純に子は自分の土地の上に自分の建物を建てて住んでいるという状態になります。

それでは、他に相続人がいた場合には、どのように考えるべきでしょうか。例えば建物所有者であるAの他に、相続人として兄B弟Cがいる場合、すなわち3人の子が相続人である場合、原則として、親である被相続人の財産は、法定相続分どおり、3分の1ずつ分けることになります(民法第900条)。したがって、親の土地の所有権や、「貸主」としての地位も、兄弟3人で3分の1ずつ分けることになります。

それでは、この場合でも、「混同」により、Aの賃借権または使用借権は消滅するでしょうか。仮に、権利が消滅してしまった場合、Aは家に住み続けることができるのでしょうか。

これについて、使用借権の場合には、最高裁の判例で、「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認する」としたものがあります(最高裁平成8年12月7日判決)。これはどういうことか非常に簡単にというと、遺産分割終了時までは、亡くなった被相続人と同居していた相続人の使用借権は引き続き存続するということになります。ただし、上記判例は、被相続人と相続人の1人が同居していた場合を想定しており、例えば、親が資産家で複数の不動産を所有していた場合など、亡くなった親と同居していない場合にまで、この判断が及ぶのかには注意が必要です。

これに対して、賃貸借の場合はどのように考えられているでしょうか。これについては、理屈上、賃借権は、「混同」により消滅すると考えられます。すなわち、相続によって、土地の3分の1についてはAに権利があり、残りの3分の2は兄弟に権利があることとなります。したがって、土地の3分の1については、「混同」により、権利が消滅することになりそうです。しかし、賃借権は土地の全部を使用することができる権利であり、土地の3分の2のみについて賃借権が成立する、というのは理屈としてはあり得ません。したがって、Aは、土地のうち、BCが権利を持っている部分だけに賃借権を設定することはできず、結果として、Aの土地に対する賃借権は全部が「混同」により消滅してしまうことになるのです。

ただし、これについて明確に判断した裁判例は見られず、また、それまで地代をきちんと支払っていたのに、突然の相続によって権利を失うことは、Aにとって大きな不利益になります。例えば、土地上の建物は、「借地権付き建物」としての価値があったのに、借地権がない建物になるため、第三者に売却することが事実上できなくなります。このため、このような場合には混同の例外として、借地権は消滅せず、相続人は相続開始前の状態で敷地を利用できると考えるべきではないでしょうか。(この点について、ご見識のある方は、ご意見をいただけると幸いです)


次項では、実際に相続が起こった場合に起こりうる問題点をご説明します。

以上

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