そろそろ「終活」を考えているAさんは、自分の資産をきちんと把握して、遺言書を作成しようと考えています。自宅の土地建物を息子のBさんに相続させる場合、娘のCさんには何をどれだけ相続させれば、不公平がないでしょうか。そもそも土地建物の金額は、いくら評価とすれば良いのでしょうか? Aさんは、毎年払っている固定資産税の評価額を、土地の評価額として、Bさん、Cさんの取り分を計算しようと考えています。
1 1物4価の考え方
一般に土地には、異なる4つの価格が成立すると言われています。これを1物4価といいます。4価とは、
①公示地価
②相続税路線価
③固定資産税評価額
④取引価格(実勢価格)
のことを言います。
1つの土地に対して、価格が4つもあるのは非常にややこしいですが、それぞれ使われる場面が異なるために、このようになっています。それでは、1つ1つ説明をしていきます。
2 公示地価
公示地価とは、一般の土地取引価格の指標となるものであり、国土交通省により公表されます。全国における主要な地点である約2万地点で、毎年1月1日時点の更地としての価格を2名以上の不動産鑑定士の先生が鑑定し、3月下旬ころに公表されます。銀座の土地が「日本で一番高い土地」などとニュースなどで流れることがありますが、これはこの公示地価をもとにしています。
3 相続税路線価
相続税路線価は、土地を相続したときや贈与を受けたときの税額の計算の基準となるもので、国税庁が公表しています。これは土地そのものではなく「道路(路線)」について設定された価格であり、土地に接している道路の価格と土地の面積を掛け合わせて、土地全体の評価を行います。
4 固定資産税評価額
固定資産税評価額は、固定資産税や、不動産登記を行うときに必要な登録免許税の計算の基準となるもので、市町村が決定します。不動産を所有の方は、毎年固定資産税を支払っているので、一番身近な価格かもしれません。
5 取引価格(実勢価格)
実際に不動産が取引された金額です。あくまで実際の取引価格なので、例えばチラシやインターネット上の広告には、「1000万円」と記載されていても、実際の取引が900万円でなされた場合には、900万円が取引価格となります。一般に「時価」というのは、この取引価格のことを指します。
6 それぞれの価格の関係
相続税路線価や固定資産税評価額は公示地価を参考にして定められているので、それぞれ関連しています。相続税路線価は公示地価の80%、固定資産税評価額は公示地価の70%と言われています。
公示地価と取引価格(実勢価格)は理論的には一致すると思われますが、実際の取引は売主と買主の事情や双方の交渉の流れなど、さまざまな要因の影響を受けますので、必ずしも一致せず、乖離していることもよく見られます。
7 遺産分割における不動産の評価額
遺産分割において、不動産が遺産に含まれている場合、その評価額は、原則として遺産分割時点での時価となります。自分が亡くなった後の不動産の評価がどうなっているかなど誰にも分かりませんが、設例の場合、Aさんは固定資産税評価額を基準にするのではなく、まずは周辺にある自宅の土地建物と似た不動産の取引価格を参考に、遺言書を作成すると良いでしょう。
なお、遺産分割に限らず、離婚の財産分与においても、不動産の評価額は財産分与をする時点の時価となることが一般的です。
また、親族間や知人間の場合には、時価よりも安い金額で不動産を売買することもあるかもしれませんが、あまりにも安い場合、贈与とみなされて多額の贈与税がかかる場合があります。そのようなことを回避するためには、売買価格の決定の際に、周辺の取引価格や、対象となる不動産の査定価格を参考とする必要があります。
以上