この度結婚の決まったAさんは、新居に引っ越しを計画しています。そこで、現在1人暮らしをしているマンションを出ていこうと思い、大家さんに賃貸借契約の終了を申し入れました。
後日、大家さんから提示された清算書を見ると、原状回復費用として、多額のお金が請求されていました。このお金は全て支払わなくてはならないのでしょうか。
1 原状回復とは
マンションに限らず、誰かから物を借りたときには、借りたときの姿に戻して返さなくてはなりません。これを「原状回復義務(げんじょうかいふくぎむ)」といいます。
しかし、マンションなどの建物は、多くの場合、長期間借りることが一般的なので、建物の経年劣化などを考えれば、「借りたときと同じ状態にして返す」ということは、まず不可能です。
それでは、Aさんは建物をどのような状態にして、大家さんに返さなくてはならないのでしょうか。
2 通常損耗と特別損耗
通常損耗とは、建物を普通に使用していたら、当然に生じる損耗(傷や汚れ、痛みなど)のことです。例えば壁に鋲を刺した時の穴、日照によるクロスや畳の変色、家具を置いていたことによる床のへこみなどが、これに当たります。
建物の賃貸借契約は、貸主が借主に対して、契約の目的(居住用、事業用など)に即して建物を利用させ、借主が貸主にその対価として賃料を支払うことが、その内容となっています。したがって、通常の建物の利用による建物の劣化については、賃料によって補てんされていると考えられています。
つまり、借主は通常損耗については、原状回復義務を負いません。
また、建物の経年による損耗(耐用年数の経過による破損など)についても、建物を長年利用していれば避けられないことなので、これについても、借主は責任を負いません。
しかし、通常損耗の範囲を超える損耗、例えば壁の落書きや結露を放置して壁に生じたカビなどは、通常の利用の範囲を超える、「特別損耗」として、この原状回復費は借主の負担となります。
3 グレードアップ費用
原状回復費用として、畳の張り替えや、エアコンの内部洗浄費などが、貸主から請求されることがあります。しかし、これらの費用については、貸主が次の借主を見つけやすいようにするためのグレードアップの要素があるものといえますので、借主が負担する必要はありません。
以上の点からすれば、設例のケースでは、Aさんがマンションを通常の使用方法で使用していたのならば、Aさんが負担すべき原状回復費用はほぼないと言えそうです。
ただし、不注意や、通常行うべき清掃を怠っていたことで、建物を劣化させてしまったような場合には、その部分については、Aさんが負担しなくてはならないでしょう。
以上