母親であるAさんの死後、亡Aさんの遺産である不動産(土地建物)は長男Bさん、長女Cさんが相続しました。とはいえ、亡Aさん名義の土地建物は人に貸しているものでもあり、また、Bさん、Cさんともにのんびりした性格で、亡Aさんの遺産について、特にどうしたいというような希望もなかったので、相続税の支払だけ済ませて、あとはそのままにしていました。不動産の名義も、亡Aさんのままです。
1 遺産分割が済んでいない場合の法律関係
相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属するとされます(民法898条)。そしてそれぞれの相続人には、その相続分に応じて、遺産をその他の相続人と共有することになります。
すなわち、亡Aさんの相続人はBさん、Cさんの2人ですので、亡Aさんの遺産は、Bさん、Cさんが2分の1ずつ共有していることになります。
したがって、亡Aさんの遺産である不動産の賃料はBさん、Cさんで折半し、同様に、不動産の固定資産税や管理のための費用も、Bさん、Cさんが折半します。利益も負担も、半分ずつということです。
2 不動産を共有にした場合
それでは不動産の持分を半々にして、賃料も固定資産税も折半とすれば、特に不動産を亡Aさん名義のまま、兄妹で共有しておいても問題はないでしょうか。賃料や固定資産税のやり取りにも問題はなく、そのほか特にBさん、Cさんの間で困ったことも起きないので、現時点では問題はない、と言えるかもしれません。
しかし、未来永劫、問題ないと言えるでしょうか。それでは将来、不動産を共有にしておいた場合に起こり得る問題点を、いくつかモデルケースを挙げて考えてみましょう。なお、それぞれのモデルケースは相互に関係しません。
モデルケース① 不動産を担保に入れて融資を受けたい
Bさんは勤めていた会社を辞めて、長年の夢であった飲食店を経営することを決意しました。そこで、事業資金を借り入れるために、亡Aさん名義の不動産を担保に入れたいと考えています。
この場合、遺産分割協議が終わっていなくても、Bさんは亡Aさん名義の不動産について、共同相続登記を行い、自分の持分について抵当権を設定し、金融機関から借り入れをすることができます。
万一、Bさんから金融機関への返済が滞った場合には、亡Aさんの遺産である不動産のうち、Bさんの持分については、競売にかけられることになります。Bさんの持分について、まったくの第三者であるDさんが落札した場合、Cさんは素性も分からないDさんとの間で家賃や固定資産税のやり取りを行わなくてはならなくなります。
モデルケース② 賃借人に出て行ってほしい
亡Aさん名義の不動産は人に貸しており、その管理はCさんが引き受けていましたが、Cさんも近年、体調を崩しがちで賃貸管理が難しくなってきました。そこで、Cさんは現在の賃借人に退去してもらい、亡Aさん名義の土地建物を売却できないか考えています。
この場合、亡Aさん名義の土地建物についての賃貸借契約を解除するには、持分割合が過半数を超えている必要がありますので、2分の1の持分しか持たないCさんは、単独では賃貸借契約を解除することはできず、Bさんの同意を得なくてはなりません。
Bさんがこれに応じてくれれば良いのですが、例えばBさんがモデルケース①のように、自分の持分について抵当権を設定してしまっているような場合、賃貸借契約の解除や土地の売却には難色を示すかもしれません。
モデルケース③ 次の世代に引き継がれる
亡Aさんの死後、亡Aさんの遺産分割協議を行わないまま長期間が経過し、Bさん、Cさんも亡くなってしまいました。この場合、さらにBさんの子であるEさん、Fさん、Cさんの子であるGさんが、Hさんが亡Aさん名義の不動産を共有することになります。関係者が増えれば増えるほど、法律関係は複雑化します。
3 共有状態を解消するには
遺産分割協議を経ないまま、なんとなく不動産を共有にしている方は多いかと思いますが、これは2でご説明したとおり、必ずしも相続人間の遺産に対する考え方や足並みが揃うとは限らず、将来の法律関係を複雑にするため、あまり望ましいものではないと考えます。
したがって、相続人間できちんと遺産分割について話し合いを行い、不動産については相続人1人の単独相続とするか、または相続人がそれぞれの持分を1人の相続人に売却するなど、早めに共有状態を解消するべきでしょう。
共有状態の解消については、次回のコラムでご説明いたします。
以上