コラム

定期建物賃貸借って何ですか?不動産賃貸借 2018.03.07

Aさんはテナント用の建物を所有していますが、老朽化が進んできたこともあり、近い将来に建て替えを検討しています。しかし、建物の1室が空室であり、建て替えまで、このまま空室にしておくのももったいないと思っています。

確実に建て替えまでに退去してもらえるのであれば、それまでの間、誰かに貸すことも考えていますが、どのようにしたら良いでしょうか。

1 普通建物賃貸借契約の場合

まず、Aさんが普通に建物を誰かに貸した場合、賃借人が同意しなければ、Aさんが希望するタイミングで建物から出て行ってもらうことは、現実的には困難です。

というのも、建物賃貸借契約においては、貸主からの中途解約や、期間満了時の更新拒絶については厳しく制限されており、少なくとも「正当な理由」がなくては中途解約や更新拒絶はできません。

そこで「正当な理由」とは何かが問題になりますが、建物の老朽化に伴う建て替えをしたいというような場合には、Aさんは借主に対して、立退料を用意しなくてはならないことが一般的です。立退料の金額については、特に明確な基準はありませんが、ある程度まとまった金額の出費は覚悟しなくてはなりません。

「次の更新の時に出て行ってもらえたらいいや」と安易に考えている貸主の方も多いかと思いますが、実際にはそんなに簡単なことではないのです。

2 定期建物賃貸借とは

それでは、一度建物を貸してしまったら、借主が自分から出ていくまで、ずっと貸し続けていなくてはならないのでしょうか。

例えば、転勤などで、2年間は自宅に住まないけれど、転勤が終わる2年後にはまた自宅に住むことが決まっている場合、転勤期間中の2年間だけ、誰かほかの人に自宅を貸したり、また、Aさんのように建て替えの時期まで、空室を誰かに貸すことができれば、建物を有効に使うことができます。

また、建物を一旦人に貸したら、事実上出て行ってもらうことが困難である普通建物賃貸借は、貸主にとって大きな負担となることがあります。

そこで、借地借家法では、「定期建物賃貸借」の制度が認められています(借地借家法38条から40条)。

定期建物賃貸借とは、あらかじめ契約で定められた契約期間の満了によって、契約が更新されることなく終了する類型の賃貸借契約をいいます。普通の賃貸借契約では、賃貸借契約期間が満了しても、立退料の支払いなどの正当な理由がなければ、更新を拒絶することはできず、そのまま自動的に契約が更新されてしまいます。しかし、定期建物賃貸借契約では、契約期間が満了すれば、正当な理由がなくても、建物を明け渡してもらうことができます。

3 定期建物賃貸借の適用と特徴について

定期建物賃貸借を行うには、以下のとおり、借地借家法で定められた手続きに従う必要があります。

① 契約書は公正証書等の書面によって行うこと(借地借家法38条1項)
通常の契約は、口頭の契約(いわゆる口約束)でも有効とされていますが、定期建物賃貸借の場合には、必ず書面で契約を行わなくてはなりません。契約書は公正証書とすることが望ましいですが、必ずしも公正証書にしなくてはならないということではありません。

② 契約書とは別に、あらかじめ契約の更新がなく、期間満了によって建物の賃貸借が終了することを明記した書面を、貸主から借主に交付すること(借地借家法38条2項)
契約書に定期建物賃貸借と明記してあっても、それとは別に、上記の内容を記載した書面を交付する必要があります。

また、定期建物賃貸借では、契約書に借主からの中途解約が定められていない場合には、転勤・病気療養・介護などの理由がない限り、借主からの中途解約は認められていません。したがって、貸主にとっては、契約期間中の空室リスクが回避できるといえます。

しかし、その反面、借主にとっては同じ建物を長期間利用できないというデメリットも大きいので、賃料は普通賃貸借の場合よりも低額に設定されることが一般的です。

4 契約終了の通知について

定期建物賃貸借期間が1年以上の場合には、賃貸人は、契約期間の満了の1年前から半年前までの間に、賃貸借期間が満了することを通知しなくてはなりません(借地借家法38条4項)。

とはいえ、この期間内に通知をし忘れていた場合でも、賃借人に通知をした日から6か月を経過すれば、賃貸借契約の終了は認められます。

しかし、全く通知をしないまま、定期建物賃貸借契約期間が終了してしまい、借主もそのまま建物を利用し続けている場合、貸主は定期建物賃貸借であることを理由に、借主に建物から出て行ってもらうように主張することはできるでしょうか。この点について、様々な見解がありますが、東京地方裁判所平成21年3月19日判決は「賃貸人が契約期間満了後に借地借家法38条4項の通知をした場合でも、通知の日から6か月を経過した後は契約の終了を賃借人に対抗できる」と判断しました。すなわち、定期建物賃貸借契約の場合、契約期間満了後であっても、契約期間の終了を通知してから6か月が経過すれば、賃貸借契約は終了すると、実務上は考えられています。

定期建物賃貸借は、普通建物賃貸借と比較しても、立退きのトラブルが起きないという点で、建物のオーナーにとってはメリットの大きなものと考えられます。その分、賃料は普通建物賃貸借より低額になりますが、建物を有効活用するために、導入を検討しても良いのではないかと思われます。

以上

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