コラム

限定承認の実務(2)~限定承認の手続き・申立相続 2018.10.25

父は多額の借金を遺して亡くなりましたが、父名義の不動産に高齢の母が住み続けられるように、限定承認の申立てをした上で先買権を行使しようと思っています。相続人は母Aと子Bである私の2名です。限定承認の手続きについて教えてください。

限定承認をする場合、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、相続の限定承認の申述を行います。限定承認の申述は、相続人全員がする必要がありますので、AさんとBさんが一緒に行ってください(民法923条)。

相続人が複数の場合には、家庭裁判所が相続財産管理人を選任する必要があります(民法936条1項)。相続財産管理人とは、相続人が複数いる場合に他の相続人を代表して、限定承認に関するすべての手続きを行う人のことです。限定承認の手続きは非常に複雑なので、設例の場合、相続財産管理人は高齢のAさんではなく、現役世代のBさんの方が良いでしょう。申立の際に、申立人(設例の場合はAさんとBさん)が申立書に、「相続財産管理人はBとすることを希望する」などと記載しておくことが一般的です。こうしておけば、裁判所もスムーズに相続財産管理人を選任することができます。

限定承認の申述をしてから数日すると、裁判所から限定承認の申述について受理した旨の連絡があります。そうしたら、いよいよ限定承認の具体的な手続きのスタートです。

☆申立てにあたってのQ&A☆

① 限定承認の申述はいつまでに行えば良いのですか?

相続の開始があったことを知った日から3か月以内になされることが原則です(民法915条1項)。「相続の開始があったことを知った日」とは、被相続人の死亡を知った日のことです。例えば同居の家族が亡くなった場合には、被相続人の死亡日になるでしょうし、疎遠にしていた親族が亡くなった場合には、その死亡を知らされた日になります。

② 限定承認を行うべきか否か、3か月以内に判断できません。

被相続人が亡くなった後に、多額の債務を抱えていたことが明らかになることもよくあります。また、被相続人の死亡後、次から次へと被相続人の債権者からの連絡があり、債務の総額がいくらかるか分からないということもあります。

このように、3か月以内に相続について判断することが難しい事情がある場合には、家庭裁判所に「相続の承認または放棄の期間の伸長」の申立てを行いましょう。これにより、相続をどのように進めていくか、判断をする期間を、数か月伸ばすことができます。

なお、詳細は次回以降のコラムでご説明しますが、限定承認を行った場合、相続人は、相続があったことを知った日の翌日から4か月以内に、準確定申告をしなくてはならない旨、定められています(所得税法第124条、125条)。限定承認を行う場合、相続があったことを知った日の翌日から4か月以内に準確定申告を行うことは、ほぼ不可能であるといえますが、所得税法上、準確定申告を行う期間の延長は認められていません。

この点は、民法と税法の間に整合性がない部分なのですが、4か月以内に準確定申告ができなかったことを理由に、加算税や延滞税が発生してしまいます。加算税や延滞税自体は、被相続人の債務として、相続財産の中から支払うことになりますが、加算税額の計算など、税務署との調整が必要になります。

③ 母だけが限定承認をして、私は相続放棄をしようと思うのですが、問題はないでしょうか?

設例のようなケースの場合、被相続人名義の家に住み続けたい高齢の配偶者(Aさん)が限定承認をして、子(Bさん)は相続放棄をした方がいいと思われるかもしれません。

この場合、将来、Aさんが亡くなった際には、結局Bさんが自宅不動産を相続することになりますので、二度、相続登記をしなくてはなりません。また、自宅不動産はAさんの財産となりますので、Aさんが亡くなった場合には、自宅不動産がAさんの遺産となり、相続税の申告対象となります。さらには、Aさんが先買権を行使して自宅不動産を購入する場合、その資金をBさんが出すと、それはAさんへの贈与とみなされ、贈与税が課されるおそれもあります。

これらの不都合を回避するため、Aさんが相続放棄をして、Bさんだけが限定承認を行うということも考えられます。自宅不動産をBさんの名義にしても、Bさんが自宅不動産を担保に金融機関から借り入れをするなどの事情がない限り、Aさんが自宅不動産に住み続けるのに特に問題は生じないでしょう。

④ 限定承認を検討していますが、申立までの間で気を付けることはありますか?

限定承認をしようか、相続放棄をしようか検討している間に、相続財産の一部を処分するようなことがあった場合、相続について、単純承認をしたとみなされます(民法第921条)。単純承認だとみなされると、限定承認はできなくなりますので、注意が必要です。

具体的にどのようなことが該当するかというと、被相続人の預金を引き出したり、被相続人名義の自動車などを売却したりするようなことがこれに当たります。

また、被相続人の債務を、被相続人の財産から支払うことも、単純承認したと見做されかねません。

したがって、被相続人の相続について方針が決まっていない間は、遺産について一切何も手を付けないことが、最も安心であるといえます。

とはいえ、例えば被相続人名義で支払いをしていた公共料金などについては、今後の支払を一切しないとなると、電気や水道が止められてしまい、被相続人と同居していた方が生活に困ることになります。このような場合には、被相続人の死亡日以降、契約の名義人を変更する手続きを取るべきでしょう。

以上

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