コラム

勝手に家の鍵を変えてはいけませんか?不動産賃貸借 2016.12.09

私はマンション1棟の賃貸経営をしている大家Aですが、賃借人のひとりであるBさんが、家賃を半年も滞納しているわ、夜中に大騒ぎをするわで、ほとほと困っています。何度も家賃の支払いを督促したり、騒音を出さないように注意しているのですが、全く効果がありません。マンションの他の賃借人からもクレームが相次ぎ、退去者も出ている状況で、私としても早急に対応しなくては、マンション経営にも大きな影響が出ます。そこで、Bさんの外出中に、部屋の鍵を変えてしまおうと思うのですが、問題はあるでしょうか。

1 自力救済とは

建物の賃貸借契約を解除したり、明け渡しを求めたりすること、すなわち大家さんの権利を守るには、法が定める手続きに則って行うこと、すなわち、裁判手続きによってすることが求められています。これに反し、裁判手続きによらないで、自らの権利を実現することを自力救済(じりききゅうさい)と呼び、原則として禁止されています。

2 なぜ自力救済が認められないのか

現代社会は、法によって治められている「法治国家」です。それにもかかわらず、法によらず、個人が自らの力で権利を実現しようとするのは、たとえその権利が正当なものであったとしても、社会の秩序を崩すことになります。自力救済が認められれば、暴力によって自らの権利を実現しようとする者も出てくるでしょう。このため、原則として自力救済は認められておらず、自力救済を行った場合には、不法行為責任を問われることになります。

ただし、自力救済は全く認められないわけではなく、例外的に、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合において、その必要の限度を越えない範囲内でのみ許されるとされています(最高裁同四〇年一二月七日第三小法廷判決・民集一九巻九号二一〇一頁参照)。

3 Aさんの場合

Bさんは家賃を半年分も滞納していたり、夜中に騒音を出したりしており、Aさんが再三注意しているにもかかわらず、これが改善されていません。

AさんはBさんに対し、建物賃貸借契約を解除し、建物の明け渡しを求める権利があると言えそうです(ただし、Aさんが賃貸借契約を解除できるかを判断するにはAさんとBさんとの間の賃貸借契約書を確認する必要があります)。

しかし、Aさんが建物の明け渡しを求めるには、法律に定められる手続きによるべきであり、Bさんの同意を得ずに建物の鍵を変えることは、事実上、Bさんから建物を取り返すこと、すなわち自力救済となるため認められません。実際に、AさんはBさんによって、Bさんからの賃料が入ってこないばかりか、同じ建物に住むほかの賃借人も退去してしまっている状況ですが、だからといって裁判ではそのことをもって、自力救済が認められる「緊急やむを得ない特別の事情がある」とは認められないでしょう。それどころか、Aさんは、Bさんが建物の中に入れなかったことよって生じた損害を賠償しなくてはなりません。

4 契約書中に自力救済を認める特約があった場合

それでは、相次ぐ賃料滞納に悩んでいたAさんが、Bさんとの賃貸借契約締結時に、契約書に「賃借人が賃料を滞納した場合、賃貸人は賃借人の承諾を得ずに、建物を施錠することができる」という条項が定められていた場合、Aさんは賃料の滞納を理由に、Bさんの住む部屋の鍵を交換することができるでしょうか。

これについても裁判例は、「賃貸人側が自己の権利(賃料債権)を実現するため、法的手続によらずに、通常の権利行使の範囲を越えて、賃借人の平穏に生活する権利を侵害することを内容とするものということができるところ、このような手段による権利の実現は、近代国家にあっては、法的手続きによったのでは権利の実現が不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合を除くほか、原則として許されないものというほかなく、本件特約は、そのような特別の事情がない場合に適用される限りにおいて、公序良俗に反し、無効である」と判断しました(札幌地方裁判所平成11年12月24日判決)。

すなわち、契約書に「賃料の未払いが続くようだと、鍵を変えることがある」ことの記載があり、この記載があることを賃借人が認識していたとしても、自力救済を認める条項は公序良俗に反して無効であると判断されました。


したがって、原則としてAさんはBさんをマンションから退去させるには、法的手続を取らなくてはなりません。手続の流れや費用については、こちらのコラムをご参照ください。

以上

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